4月15日 ポレポレ東中野にて
ロードショー!
本作は単なるショートストーリーが連なったオムニバス映画ではない。ショートストーリーによって確かに連結された町の物語であり、主役は町そのものと言ってよいだろう。その不思議な感覚は特殊な撮影手法によってもたらされている。
今回が初の劇場公開作となる本監督は、劇中にも登場する「上飯田ショッピングセンター」の建物の佇まいから強い映画創作の着想を得た。現地に何度も足を運び、町民の人々と交流するなかで、物語を制作していった。
主要キャストはエビス大黒舎に所属する若手俳優たち。こちらも演技のレッスンに足を運び、それぞれの人物像と登場人物を丁寧にすり合わせていった。上飯田町に実際に生活する人々も出演してもらっており、俳優たちの演技のなかに、いきいきとした町民の会話が溶け込み、フィクションにいろどりが与えられた。
フレームの外の町の風景、生活、人々が、巧みにフレーム内に融合した、この時代にしか撮れないエスノグラフィックムービーが誕生した。
『いなめない話』
生命保険の営業のヒロコが、乾物屋で働くマコトの依頼で訪問し営業をすることに。マコトが依頼をしてきたのに、なぜかヒロコに高慢な態度で迫るがその裏には...。
『あきらめきれない話』
もうすぐ結婚するショウは、仲の悪い兄ツヨシに結婚式に出てもらいたく兄の家に行くが、兄は頑なに出たくないと言う。
『どっこいどっこいな話』
知らない場所に行っては、そこでもし生活したらということを想像するナオキ。ある日上飯田町を写真に撮っていると乾物屋のマコトと出会い、そこでつかの間の奇妙な関係が始まる。
1991年生まれ。高校時代から映画を学び始め、東京造形大学映画専攻領域へ入学。在学中は諏訪敦彦ゼミに所属。卒業後5年間イベント制作会社にて会社員として働きながら自主で映画制作を続ける。2020年度から東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域に進学。『上飯田の話』はコロナ禍のため休学していた2020年に自主制作した。場所から発想し、実際にいる人たちと話をしたり、関わりをもつ中で、映画を生み出していくことに関心がある。
東京生まれ。武蔵野美術大学 映像学科を卒業。卒業後、フリーのカメラマンになる。 映画、コマーシャル、MVなど幅広いジャンルを撮影。
広島県出身。東京造形大学大学院卒。在学中から自主制作映画に携わる。卒業後はフリーランスとして様々な現場で活動中。
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。沖縄を拠点とする映画監督、ライターでもある。監督作『BOUNDARIES』(2021年)は現場録音として監督たかはしが参加。大阪国際アジアン映画祭にて上映。
キャスト:竹澤希里 本多正憲 吉田晴妃 黒田焦子 日下部一郎 生沼勇 荒川流 上飯田町の皆様
監督/脚本/編集:たかはしそうた
撮影監督:小菅雄貴 録音:河城貴宏 助監督:福地リコ 制作:生沼勇 整音:浪瀬駿太 音楽:本田真之 絵:西永怜央菜 DCP制作:西後知春 宣伝協力:ガブリシャス本田 協力:㈱エビス大黒舎 上飯田ショッピングセンター 英語字幕:Megumi Suehara
2021年/日本/カラー/スタンダード 1:1.33/モノラル/63分
Comment
上飯田という場所は実在するが、『上飯田の話』はどこにも存在しない。それは誰かの私的な記憶の場所でありながら、誰もが知っているはずの風景である。映画と現実。ドキュメンタリーとフィクション。歴史と現在。あなたとわたし。バナナの木とソフトボール。あらゆるものを結びつけながら分割する「と」という接続詞をヒョイと飛び越え無効にしてしまうたかはしそうたの大胆不敵さを御覧あれ。これもまた映画にしかできない離れ技である。
その辺の普通の人たちのいつもの生活が、気味悪いほど確信に満ちた映像で撮られることによって何やら神聖なものに見えてくるから不思議。たかはしそうたは若くして映画の本質をつかんでしまったようだ。カメラがゆっくりパンを開始する度に、僕は自然と襟を正した
なんて風通しの良い映画なのだろう。それが最初の感想だった。俳優も、不意に横切る人々も、上飯田という街も、無理をしていない。これは映るものの”自然さ”を安易に装うつまらない映画なのだろうか?
いやちがう。カメラが俳優へ近づくとき、私たちはフィクションへ跳躍する。俳優によって、フィクションによって、あるいは撮るという行為によって、上飯田の街は別の相貌を垣間見せてくれる。たかはしそうたが作り出す、街と人のあいだに流れるささやかだが苛烈な風は、劇場の暗闇でしか体験できないはずだ!
生きることを物語に要約しないことで、毎日の暮らしのどうでもいい細部にひそむ不安が見えてくる、隠された日常の発見。
画面に映った、
通り過ぎる車のナンバーに、
保険外交員が履き替える靴のピンクに、
公園のおじさんのアンダースロウに、
結婚を控えた女性の瞬きに、
横浜市に生きるバナナの木に、
和らくの女将の霊感に、
何か世界の秘密が、(それはフルクタルであるのかないのか)、潜んでいるのではないかと、目が離せなくなってしまう。
一回も行ったことがないのに懐かしい。そしてずっと昔に加入した生命保険の、その内容を確認せずにはいられない。
どうってことない町がスクリーンに映し出される前にテクノでPOPな曲が軽快に流れる。
危険だ。この映画を作ったやつは見ている私たちをどっかにきっと陥れるつもりだ。
足早な女をカメラが追うと団地に辿りつく。
入り組んだショッピングセンター、電子的な音楽が誰もいないのに忙しない。会話のついでに買い物にきている高齢者の声が響く。
空虚な目の八百屋亭主と絵に描いたような保険外交員。
真っ赤な車を挟み怪訝そうな首が埋まった女とスキンヘッドの男のカップル。
そのカップルを悩ますムカつく声の兄。
カメラを構えたどうもチグハグな男。
外から戻ってきた人たちが集う小さな居酒屋。
そんな人たちがいる横浜の上飯田町。はたして?
上飯田サーガの幕開けです。
映画の魔法を極力排除した『上飯田の話』はたくさんのマジカルが生まれている。
それは上飯田という街とそこに生きる人々...そしてそれらに取り憑かれたように魅せられた監督のおこす魔法。
公園、話に飽きたように突如動き出すカメラ。曲線の造りが多いじいちゃんの家、彼女がじっと見つめるその視線の先。整然と並ぶ団地、酒を飲む人たち、日記を読む声...何気ない日常の風景を見ていると思ったら、少しずつ少しずつたかはしそうた監督のワンダーランド に誘われている。そのゾワゾワと楽しさよ!
人間って、時々憎たらしく思えることもあるけど、やっぱりおもしろいし、楽しいし、かわいい。
だから嫌いになれないしやめられないんだよな。そんなことを、見ていて思いました。
流れている時間と、たかはし監督の持つ"おかしみ"がとても心地よい映画です。
どれもが二度と起きない景色のようで、その一度目を何が起きても見守り続ける監督の姿が勝手に浮かんできてしまいます。 ふと心が安らぐ瞬間というのはなかなか鮮明に覚えておくことが難しいけれど、この作品にはその瞬間がたくさん映っています。